話半分

なんでも話半分で聞いてください

(おもいで)雨の日、おにぎり、列車の話

順不同。




ある雨の日、次男を幼稚園に迎えに行かなくてはいけないのに、自家用車が無くて、路線バスで向かう。
バスだと帰りはちょっと急がないと、小学生の長男の帰りに間に合わない。お母ちゃん焦る。
次男は、お母さんが来たことに興奮して、なかなか帰りの準備ができない。
長靴だから、うまく歩けない。などなど色々あって、信号を渡りそこねる。
お母ちゃんキレて「あんたのせいでバスに乗れなかったらどうするの!急いで!」と言ってしまう、次男べそかきながら走る!
バス停についたら、まだバスが来ない。
1つの傘に二人で入って、パラパラと雨が当たる音を聞きながら
「さっきは怒ってごめん。バスまだ来ないね」
「うん」
「濡れちゃったね。家に帰ったら着替えようね」
「うん」

「……ねえお母さん、バスって何色なの?どのバスが来るの?」
「何色だろうね。楽しみだね」
「うん!」

次男の方が大人だ。
その後、車でバス停の前を通るたびに「ここでバスに乗ったねー♪雨だったねー♪」と楽しそうに言う次男、楽しい思い出なの?
お母さんは、思い出すたび胸がぎゅっとする。





長男が、生まれてから半年も経たない夏の終わりの話。
ベビービョルンの抱っこ紐で前に抱っこして、散歩に出かけたときのこと。
残暑の残暑でまだ生ぬるい夕方、雨が降り始める感じがして、傘を広げたとたん「バラバラバラ!」と当たる雨。
まどろんでた長男がその音に驚いて、傘を、空を、見上げたその丸い頬。
その瞬間、
この子は、確かにわたしから生まれたけど、心臓も脳みそもわたしとは違う、彼は彼で生きてる、生きてくんだって急に思った。
びっくりした。当たり前のことなんだけど、突然そう思ったんだった。




事情があって誰にも頼れず、自分だけが頑張らなければいけなかった頃の話。
幼稚園児の長男と、まだ入園前の次男を車に乗せて、となり町の図書館までドライブに行った。
途中で「おなかすいたー」って言うので、ある昔話の主人公の名前がついた、おにぎりのチェーン店に入った。
お店にはお客さんが誰もいなくて、カウンターの中に50代くらいの女性スタッフがひとり。
「お作りしますよー」って声をかけてくれたので、鮭といくらの贅沢おにぎりを2つと、うどんを1杯頼む。
ほどなくうどんがやってきて、まず食いしん坊の次男に食べさせる。長男はお行儀よくおにぎりが来るのを待ってる。
おにぎりがまず1つやってきて、長男に食べさせる。大きいうえに豪華な具で食べにくいので、両手で持って一生懸命ほおばってる。
ほどなくもう1つがやってきて、次男にちょっと食べさせてから、わたしも食べてみる。
お、おいしい。
誰かがにぎってくれたおにぎりって、おいしい。
具が豪華なのもあるけど、おいしいよー

いつもは多分しないだろう、お茶を持ってきてくれた女性スタッフに、大丈夫?って声をかけられたけど、黙ってうなずくしかできない。
次男がうどんに飽きてわたしのおにぎりに顔を寄せてる、長男は大きいおにぎりの端がこぼれそう、お母さんは泣きながらおにぎり食べてる、大丈夫なわけないけど、まあ大丈夫だったよ。今も生きてる。





この線路を通っていけば、家に帰れる。
電車に乗ってもいいけど、最悪、歩いてだって帰れるんだ。

台所の窓から見える線路には、東京から札幌までを往復する、豪華なレストラン付きの列車が毎日通ってる。
あれに乗ったっていいんだ。
夜に、あの列車に飛び乗って、帰ることだってできる。時刻表は頭に入ってる。
わたしのお母さんだって、夜汽車に乗って帰ったことがあるって聞いたことがある。
泣いてる赤ん坊のわたしを伯母に預けてお酒を飲みに行って、おばあちゃんにこってり絞られたんだって。
思い立ったら、そうすればいい。そのためのお金はお母さんがくれた。
だけど、もう帰ってもお母さんはいない。
どこに帰ったらいいのわたし。

ときどき、お母さんのにぎったおにぎりが食べたくなる。
全然ふわっとしてなくて、きっちり三角で、海苔は少ししか巻いてない。
味はしょっぱいし、混ぜてあるふりかけは自然食品のお店で買ったやつだ。

この間、子どもたちの運動会に来てくれた伯母が「あなたの作るおにぎりは、お母さんのと同じだね」って言ってた。
なんでだろう。ふりかけも違うし、海苔も巻いてないのに。
あんまり食べたすぎるから、手が勝手に作ってしまったんだろうか。

いや、でも、全然違う。あんなじゃない。
わたしの作るおにぎりは、もうちょっとふわっとして、丸いはずだ。

伯母や義母がつくる、プロみたいなふわふわおにぎりに憧れてる。
海苔は大きくて、まるごとおにぎりを包み込んでる。
帰省した時、お義母さんが帰りに持たせてくれるんだ。
すっごくおいしいけど、食べながら泣いたことはまだ、ない。




したっけねー( ´ ▽ ` )ノ


おにぎらず

おにぎらず